弓田先生、椎名先生、スタッフの皆様へ
フランス菓子本科1年コース卒業生 河崎誠

 70歳になるまで、よもやケーキ作りをするなんて思ってもみませんでした。体験入学の折に食べたシャルロットゥ・ポワールの味が忘れられず入学手続きをしたのですが、入ってみて戸惑う連続、あまりの厳しさに時間よ早く過ぎてくれと願う日々も幾たびかありましたが、教室のすごさはそんなことはお構いなしに作らせてしまうところです。しかも配ったケーキは全員「おいしい!食べたことがない!」と言うのです。

でも心のどこかでいつも、経験できただけでいい、これで終わりにしようと思ったところがあったのですが、再びケーキを作りたいと思う出来事があり、ぜひ、皆様に読んでいただきたく、手紙を書いた次第です。

それは卒業近くになったある日、一人のご婦人の訪問があり、丁寧な感謝の言葉を頂いたことなのです。彼女のお父様は認知症になり、施設に入居されていたそうです。彼女は私がケーキを届けた翌日にケーキを施設に持参するようになり、お父様は施設の係の人たちに、「娘が美味しいケーキを持ってくる」と誇らしげに話していたとのこと。 そして持っていたケーキをしばらく手を付けずにじっと見て「高いだろうな」と一言。

「お父さん、食べていいのよ。二人で食べましょう」

このような親子のやりとりを聞いた後に、彼女からこんな言葉を頂きました。

「毎週二人で食べました。父が食べながらボロボロ落とすのを拾っては食べ、拾っては食べ。二人で食べました。2月になってとうとう食べられなくなりました。本当に美味しかった。有難うございます」

親が子になり、子が親になった話です。

「こちらこそ」と言いたいのに声がつまって、何も言えませんでした。イル・プルーに通って本当に良かった。シャルロットゥ・ポワールから始まったイル・プルーの味は、味覚の伝播として発信すれば、必ず心地よい返信として帰ってくると確信したのです。

教室で学べたことに感謝申し上げます。

有難うございました。


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