私のルネサンスごはん ごはんとおかずのルネサンス

第6回:西坂直樹さん(「スタジオナップス」代表、カメラマン/福島県郡山市)

西坂直樹さん プロフィール

APA日本広告写真家協会会員。1984年に西坂写真事務所設立。1993年自社スタジオ建設時に現社名に変更。2004年、東京都台東区柳橋にスタジオを設立。スタジオ代表として広告・書籍などの写真撮影を行う傍ら、地域のオーケストラに所属していたり、ニュージーランドのフライフィッシング記録保持者になっていたりと、多趣味な行動派カメラマンでもある。

イル・プルーでは、「ごはんとおかずのルネサンス」のシリーズ当初から撮影を担当する他、弓田亨の「五感で創るフランス菓子」、「パティスリー・フランセーズそのイマジナスィオン・フィナル Ⅲ.フランス菓子その孤高の味わいの世界」では菓子の写真撮影も担当。
また、NPO法人「災害救助犬ネットワーク」理事長も務め、自ら愛犬と共に災害救助も行う。3.11の東日本大震災でも当日の夜から出発し、約一ヵ月間、福島、宮城、岩手と救助活動にあたった。

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【その1】実は「ごはんとおかずのルネサンス」初版(2003年刊)は、
デジタル撮影のハシリでもあるんです。

──西坂さんの場合、本の撮影で初めから関わっているので、実は、出版部の人間よりも、「ルネサンスごはん」の進化を見ているんですよね。

西坂直樹さん(以下:西坂) そうですね。もう、全部食べて撮ってます(笑)。

──最初はどういう経緯でルネサンスごはんの撮影の依頼を受けたのでしょう?

西坂 もともとは「少量でおいしいフランス菓子のルセットゥ」という本を知り合いがやっていて、ルネサンスごはんの本を作る時に、写真を撮らないかと声をかけてもらったのがキッカケでした。

 2003年当時はまだデジタル撮影黎明期。料理でデジタルを取り入れているところはあまりありませんでした。当時はなかなか印刷で色もよく出なくて苦労しました。

──初めて「ルネサンスごはん」の料理法とこの料理を見た時って、どんな風に思いましたか?

西坂 実は意外に抵抗がなかったんです(笑)。うちの母や叔母が料理好きで、その人達が作っていた料理、味に、出来上がったものが凄く近かったんですよ。弓田さんの料理法には、「甘味を出すために、これを加えます」みたいな考え方がいろいろあるじゃないですか。それも、「ああ、なるほどね」と凄く納得できる部分が多かったですね。

 というのも、僕は福島に住んでいて、いつも新鮮でおいしい野菜が手に入る訳です。ですから撮影の時、東京のスーパーで売っているという野菜を見た時、「これを食べるのか?」と驚きましたよ。

 その一方で、確かにきちんとした所で採れた野菜と、スーパーで買う野菜では味が違うので、その味の違いの、“足りない部分”というのが、弓田さんの言う「栄養素」なのかな、と思いました。

──それは「福島」という郷土性にも相通じるものがあるのでしょうか? 例えばこういう食材を使っているところが福島っぽいと感じた、などはありますか?

西坂 福島県って広いんですよ。面積で言うと、石川県と福井県と富山県を足したぐらいの大きさがあります。エリアとしては、「浜通り」「中通り」「会津」の三つに大きく分かれ、それぞれのエリアが高い山で区切られているんです。

 弓田さんの故郷・会津はどちらかというと日本海側の食文化圏に入るんですよ。新潟や山形など、雪国の文化圏ですね。ですから「ルネサンスごはん」を見た時には、「福島らしい」というよりは、「会津らしい」と思うことはよくありました。

 例えば乾物から味を出していくところ。これは冬の保存食からきていると思います。また味の構成も、割とドライというか、甘くない味付けが多いのも、会津の特徴だと思います。あとイモ類をよく使いますよね。いろいろな理由でイモに至ったとは思うんですが、その辺も会津というよりは、冬が長い雪国の人が作った料理だなぁ、と思いましたね。

──2003年の初版(以下、「初版」)と、2010年に出した「新版ごはんとおかずのルネサンス基本編」(以下、「基本編」)との間には、考え方の変遷も読み取れると思います。特に、最初の頃は弓田自身、「ちょっと考え過ぎていた」と思うほど、複雑だったレシピも、「基本編」ではかなりシンプルになっていたり。

西坂 これは私見ですが、最近の「ルネサンスごはん」は、味に関しては躊躇がないところまで完成されたような気がしますね。言っていいのかな。あのね、試作を始めた当初よりも、断然おいしくなった(笑)。

 それと昔は一品の中に全ての栄養素を入れ込むような感じだったと思うんですが、今は、ご飯と味噌汁と、あと煮物(もちろん煮汁も飲んで)を食べて、それで最終的に栄養が整えばいいという風に少し大らかに組み立てるようにになったんじゃないかな、と。

 おいしくなったのはもちろんですが、簡単で作りやすくなったというのが一番ですよね。やはり作りにくいと普及しないですしね。

──確かに弓田が教室で生徒さんに「ルネサンスごはんをやってみなよ」と言っても、最初の頃は「ちょっと敷居が高くて…」という人も多かったみたいです。ただ「初版」は、当時、「ルネサンスごはんというものを作るのだぁ」という力というか、“熱い思い”みたいなものが、より感じられる、と仰る方もいます。

西坂 僕は「初版」の表紙の烏賊ご飯は、絶対反対でした。弓田さんがどうしても「これでいくんだ」というので、烏賊ご飯になったんです。他にも候補はあったんですけれどね。これでもかというくらい大盛りにして撮影しました。弓田さんにしてみたら「料理は見かけじゃないよ」ということの象徴だったのかな、と思いましたけれど。でもやっぱり写真的に見たら、烏賊ご飯は色も悪いしね、地味ですよね(笑)。

※弓田が「絶対これ!」と押した烏賊ご飯が表紙の、2003年11月発売のルネサンス初版。

──当時の印象的な撮影エピソードってありますか?

西坂 面白かったのは、原寸での切り見本をつけたことですね(注:これはシリーズを新しくリニューアルしてからは入っていません)。

※原寸切り見本(写真は烏賊ご飯)。

──おでんみたいに、ページに収まらない切り方もありましたしね(笑)。

西坂 そうですね。とにかく大きく切るんだ、というのを見せたくて、この原寸見本があったように思います。今改めて見ると、「初版」の原寸切り見本のページって面白いですよ。

 我が家で料理をする時に、ベースにするのは今も「初版」なんです。ずっと使い慣れているというのもありますが…。

──「初版」を作っていた時代は夜中まで撮影をしていたそうですね。

西坂 そうです。教室が終わってから機材を入れて撮影を始めて、夜中の1時か2時ぐらいに終わって…。また機材を撤収して、次の日も夕方6時ぐらいから始まって…。弓田さんも若かったし、体力もあったんだと思います。

 撮影にかける時間数自体は、今の本とあまり変わらないですね。ただ最近は段取りがよくなって、撮影ポイントのところまで準備が済んでいたりしますが、当時は、作り始めてから最後まで、を全てすりかえ無しで作っていました。ですから例えば「24時間置く」とあるものは、24時間置いて翌日撮る。だから「初版」に関しては全てのメニューを、本当に全工程見ましたね。

──「ルネサンスごはん」や弓田の求める写真が、他の料理の撮影と違うなと思う点はありますか?

西坂 普段僕らが料理の撮影するのは企業の広告用の写真です。そうすると、おいしそうに見せるとか、華美な演出をします。味じゃなく、「おいしそうな雰囲気」を撮る場合があります。でも「ルネサンスごはん」では、そのものをきちんと見せていくことを心がけていました。

──特にシリーズ第四弾となる「炊き込みご飯と味噌汁編」では、その撮り方もぐっと洗練された気がします(生意気言ってすみません!)。あの、他の料理の本と比べてもらえたら一発で分かると思うんですが、全部にピンがあっているのに柔らかい。つまらなくない。見た目通りに全部がはっきり見えて空気感もある、という写真は、まさに、一つの完成形のように思いました(ホントに生意気言ってすみません!)。

※ポスターで使った、両方にピンが合っているのに美しい写真。

西坂 2003年当時は、まだデジタルカメラの技術的にここまでの表現が出来なかったんです。

──それは弓田が表現したいと思っていた写真ともピッタリ合っていますよね。

西坂 そうですよね。例えばここにゴマが入っている、いりこが入っている。それはきちんとピンが入ってないと見えない。全部じゃがいもだったら、どこかにピンが入っていればこれがじゃがいも料理だと伝わるけれど、いろんな具材が入っていて、それらがしっかり見えるように、という意味では、シリーズ最新刊の撮り方では「ルネサンスごはん」の魅力がきちんと出ていると思います。地味だけど常に写真でも新しいことを取り入れているんですよ(笑)。

 「初版」の頃の写真が悪いわけじゃないけれど、当時は伝えられなかった写真が撮れるようになったとは思いますね。


その2へ・・・

【その2】毎日撮影で「ルネサンスごはん」を食べた時は、お通じがいい。その時、この料理はきっと正しいんだなって、自分の体調で確信しました。
【その3】西坂流の究極の手抜きワザは「ストック出汁+いりこ」。あとは、「下ごしらえ」と調理法が頭に入っていれば、材料が多少揃わなくてもおいしく作れるのが「ルネサンスごはん」の魅力。
【その4】僕はね、「ルネサンスごはん」は「生き方」だと思うんです。まるで弓田さんはこの日のために、「ルネサンスごはん」を作ったのかな。そんな風にさえ、僕には思えるんです。


 


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