峻烈なる道程弓田亨

弓田亨のこだわり孤高のお菓子作りパウンドケーキについて

とにかく、とんでもなく旨いパウンドケーキを
よくこれだけ作ってきたなぁと、
私自身も自分に対して驚いています。

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今も毎年、本当に旨いものが次々に出来ている。パウンドケーキの作り方はシンプルなんです。既に出来上がっているものを日々再現するのはもっと簡単です。パウンドケーキの本などで明らかにしている作り方に従って作れば、必ずおいしく出来ます。

新しい味わいを作り上げることは少し難しいですが、これも素になるのは私の頭の中にある素材への膨らみのある鮮烈なイメージなんです。作ろうとする新しいパウンドケーキへのしっかりしたイメージがあれば、まず素材のイメージ同士を組み合わせてこんな風になるのではないかと、頭の中で大まかな設計図を作ります。そしてとりあえずまず考える配合で作ってみます。そして食べる。設計図と異なるものが出来た場合は、次はその違いを埋めるためにそれぞれの素材の分量を加減します。

ここで他のパティスィエにはなくて私にあるものは、1つ1つの素材の味わいの特性を深く、感覚を持って理解していることです。ただ当てずっぽうに素材の分量をいじるのではありません。

例えば生地の中に卵黄を増やしていけば、しっとりとしてホロッとした歯触りが増します。味わいとしては暖かい感覚が増しますが、卵黄は味わいのトーンが強く、他の素材を押さえこんでしまいます。

砂糖は甘さだけでなく、その粘りでメレンゲを潰れにくく強いものにしたり、全体の味わいを時には強め、時には穏やかにしれくれます。量が増えればホロッとした歯触りが増して、口溶けがなくなる。

粉が増えれば澱粉やバター、卵、砂糖などを吸収し、生地の歯触りをしっかりさせますが、これが他の素材を包み過ぎると他の素材の味わいが埋もれ、モコモコした歯触りが増して、印象の薄い焼き上がりになります。

1つの素材について、最終的に食べればどうなるのかということが、頭の中に全て刻みこまれているのです。そしてさらに木べらやホイッパーをどのように動かせば、目に見える部分と見えない部分で素材同士がどのように混ざり、それは最終的に味わいはどう影響を及ぼすかを私は知っていますし、そのイメージに合わせて混ぜる器具を選び、動かし方を選んでいるのです。

最後に粉を混ぜる時も、ホイッパーを使えばグルテン、澱粉が他の素材を包みこんでモクモクした平坦な味わいになります。だから木べらを使います。でも木べらでも動かし方で粉の混ざり具合は全く異なります。

【平行楕円】という強い混ぜ方では、ホイッパーと同じ結果になります。【90度】という動かし方では木べらの先の広い部分が進行方向に常に90度をむいているように混ぜます。これは混ざりが比較的浅く、ほどよく混ざります。

こんな風に、素材のイメージ、テクニックへのイメージを、明確に持っています。
 作りたいお菓子のイメージがあり、これを達成するには素材のどの表情を強調し、どのようなテクニックと器具で混ぜれば最終的に食べてどう感じるかが私の頭の中にはあります。

正に、明るい春の日差しと息吹を感じさせる杏のパウンドケーキ、秋の風情を朴訥に暖かく表した栗のパウンドケーキ、人の心の中を覗き込むような凝縮された人の意志を讃えたいちじくのパウンドケーキ、意識に深く沈みこんだ自分を見つめるかのようなコーヒーとウイスキーのパウンドケーキ。様々の表情が、一人の人間、パティスィエから生まれてきたことも、私にとってはとても大きな驚きなのです。

そして私の創造性には誰も近寄ることは出来ません。ここでも他の人には決して創り出せない、正に個々の味としか言いようがない味わいなのです。

私の友人ドゥニ・リュッフェルに「菓子屋ならだれでも嫉妬するようなおいしさ」と言わしめたパウンドケーキ。そしてイル・プルー・シュル・ラ・セーヌのお菓子なのです。

皆さんも、マスコミにのせられた偽りのおいしさに踊らされ、あたふたしないでください。フランスにも世界中に誇れるパウンドケーキが、そして様々のお菓子がイル・プルー・シュル・ラ・セーヌにはあるのです。もっともっとイル・プルー・シュル・ラ・セーヌを見てください。

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